「そんな……」

「そんなことより、母親の病気の方はどうなったんだ?」

賽子はコーヒーを一口啜って、愕然と立ち尽くす麻利衣を横目で見ながら訊いた。

「母は至って元気です」

「馬鹿な娘だな。別れの時が近づいているとも知らず」

麻利衣は遂に癇癪を起こした。

「勝手に母を殺さないでください! あまりにもひどいじゃないですか!」

「知らぬが仏とは言うが、やはり大事な人との別れには心の準備が必要だ。だからこそ親切で言ってやっているのだ」

「親切? 余計なお世話です」

「おまえは母親が何故1週間も東京に泊まりに来たのか知っているのか?」

「それは私が国試に落ちたのを知って、慰めるために……」

「だからおまえはおめでたいと言うんだ。彼女は病気の治療のために東京に来たのだ」

「治療? 母は病院に行くなんて全然言ってませんでした」

「今、母親がどこにいるか分かるか?」

「昨日、位置情報共有アプリを入れたから分かりますが……」

麻利衣はスマホで小百合の位置情報を確認した。彼女のスマホは板橋区のとある民家の中にあるようだった。

「何でこんな所に……」

「行ってみれば分かる」

賽子が出かける準備をしたので麻利衣も慌てて支度した。

タクシーでその2階建ての古びた民家に着くと、「奇跡の手――其田(そのだ)超能力気功治療院」という看板が掲げてあった。

元々ガレージとして使われていた一階部分にパイプ椅子が並べられ、そこには4、5人の中高年の男女が座り、にこやかにおしゃべりをしていた。

そのうち、2階の部屋に続く赤錆びた鉄製の外階段から詰襟で、胸元をチャイナボタンで留めた白い絹製の気功服を着た背が高くて色白の女性が下りてきた。

「次の方、どうぞ」

「はい」

一番奥の女性が興奮で顔を上気させながら立ち上がり、気功服の女に随って階段を上って行った。それと入れ違いに2階の部屋から小百合が下りてきた。

「お母さん……」

二人に気づくと彼女は驚いたがすぐに苦笑いをしてみせた。

「バレちゃった」

次回更新は3月2日(月)、21時の予定です。

 

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