しばらく間があった。

「じゃあ」

あずみが口を開いた。

「下準備のお手伝いなら」

「よぉ~し! もらった!」

真琴はガッツポーズをした。

「じゃあ、決まりね!」

「お手伝いだけだから」

あずみは不安ながらもそう強調する。

「大丈夫! 店番は部員がやるし、あずみは前日までの調理に参加してもらえばいいだけだから!」

「そう?」

真琴はこれで学祭の成功は約束されたと思った。

ミーティングではあれだけ意気込んでいた真琴だったが、料理に不慣れな自分が提案してしまったことを、少しバツが悪く感じていたのだ。

「その餃子なんだけどぉ」

にやにやしながら真琴は続ける。

「水餃子にしようと思うの」

「水餃子?」

「うん」

真琴の提案に、あずみは水餃子なんて作ったことあったかなと一瞬思った。

「焼き餃子だったら大変じゃない? 当日の調理が」

「ああ、そうだね」

あずみは上目遣いにうなずいた。今まさに、その餃子を焼こうとしていたところだったのだ。

「水餃子だったら、ただ茹でるだけでしょ?」

「茹でるだけ? ああ、そうよねぇ。でも、皮は違うんじゃないかなぁ」

あずみが餃子を焼こうとフライパンに油を引いたところで、振り向いて言った。

「え? そうなの?」

「わたし、本格中華とかは分からないけど、水餃子と焼き餃子では皮から違うんだと思う」

「皮から?」

真琴があずみの手元を後ろから覗き込みながら聞いた。

「うん。焼き餃子の皮は、ほら、こんな感じで薄いでしょ?」

あずみが熱したフライパンに餃子を並べながら、一つ取って真琴に見せる。

真琴は目を寄せて皮を観察する。

「あ、そうだね。これが焼き餃子だよね」

いつも見る餃子だ。真琴の家でもよく母親が食卓に出す。あずみの家のように、手作りかどうかは分からないけど。

「でも、水餃子だったら、もう少し皮が厚いような気がしない?」

あずみは餃子を持ち上げ、真琴の前に寄せて言った。

「焼き餃子だったら市販の皮があると思うけど、水餃子だったら皮から手作りしないといけないんじゃない?」

「え?」

あずみは餃子を手際よく焼いていく。お湯を入れてフライパンに蓋をしたところで、あずみが向き直った。

「しばらく置くね」

そこで真琴に先ほどの質問をもう一度投げかけてきた。

「だから、もしかしたら事前の準備のほうが大変ってこと」

小麦粉(なのだろうか?)をこねて、そこから餃子の皮を手作りするということだ。

「……」

真琴は黙った。

そんな本格的な料理なんて、一度もしたことはない。

 

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