【前回記事を読む】中学生の時に両親を事故で亡くし、姉を病気で亡くした。それ以来、亡き姉の夫と2人で暮らしている。

1 医学祭

真琴の性格は、思いついたらすぐに話をつけないと気が済まない。行動派といえば聞こえはいいが、せっかちとも言えた。

「夕食の準備中だった?」

すっかりエプロン姿が板についている。これはいけると思った。

「ああ、うん。でも、いいよ」

あずみはどうぞとスリッパを出してきた。真琴も何度かお邪魔したことのある家なので、そこは遠慮がない。しかも家には今、義兄はいないようだ。あずみだけだと思うと、余計遠慮がなくなる。

「ありがと~」

スリッパを履いて、廊下を進むとリビングに案内された。

「お義兄さんはまだ?」

「うん。今日は泊まりじゃないのかなぁ?」

壁にかけてあるカレンダーを見ながらあずみがつぶやく。そこに義兄の予定が書いてあるらしい。泊まりの日もある義兄は、カレンダーの予定表であずみと連絡を取り合っているようだ。

「大変だねぇ」

真琴はあずみの義兄の顔を思い浮かべながら言った。これまで何度も顔を見ているのに、少し苦手だ。それは刑事という職業からくる威圧感からかもしれなかった。あずみの話からは、そんな堅苦しそうな人には見えないが、静かな威圧感とでもいうか、何を考えているか分からない風貌に、真琴は少しだけ警戒心を抱いていた。

「あ、ごはん、食べてく?」

「え?」

「夕食をちょっと作りすぎちゃって」

あずみが照れたように言う。

「え~! もしかして、余分あるの?」

「うん。餃子なんだけど」

「餃子!?」

真琴は餃子という言葉に大きく反応する。

「ぎょ、餃子って、あの餃子よね?」

「あ、餃子嫌いだった?」

「いや、嫌いじゃない。餃子って聞いて驚いただけ。ちょうどさ、こっちも、あずみに餃子関係の話を持ちかけようと思っていたの!」

「餃子関係の話?」

「そう!」

真琴が飛びついて言った。

そして、学祭の出し物を食べ物にすること。第一案として餃子を考えていること。調理の助っ人が必要なこと。今日は、まさにその助っ人のお願いに来たことを一気に話した。

「助っ人って……つまりそれが、わたしってこと?」

「そう! あずみが助っ人!」

真琴は、あずみの家のおかずが餃子だったことに運命を感じている。

「でもわたし、家庭料理くらいしか作ったことないよ」

あずみが眉をひそめた。自信がないらしい。

「な~にを言っているの! あずみの料理がレベル高いことくらい、わたしが知っているから!」

「そんな……」

真琴の勢いに乗せられて、あずみは少し気持ちが動いた様子だった。

「ね? みんなを助けると思って!」

真琴はあずみの手料理を食べたことがある。それは、確かに普通の家庭料理だった。でも、味は言うことないし、何より手際がいい。真琴の周りに、あずみ以上の適任者はいないと思った。