「今だから言うが、生駒屋敷から帥(そち)とは同じ匂いを感じておったのだ」
「私と同じ匂いでござるか?」と着ている服の匂いを嗅ぐ藤吉郎であった。
「うつけ者、その匂いではないわ。帥と儂の感性、感覚、思考が似ておるという意味じゃ」
信長は笑った。
「はて? おかしなことを言われます。私は農民の出、殿は武家の出ですぞ」
「だからうつけと申した。帥も儂も己ではどうにもならぬことに直面し苦しみ、そこから抜け出す術を考え這い上がって行こうとする前向きな姿勢のことを言ったのじゃ」
「ますますわかりもうさん」
「儂は、出来の良い弟の信勝と比較され、身内からも諦められて育った。後継は弟が筋となっておった。帥も親を戦で亡くし、後妻の子で肩身が狭く流浪の旅を強いられた」
「確かにそうですが、勿体ないお言葉です。が、そのような配慮も殿らしいお心遣いかと感じ入ります」
「まあよいわ。二人だけの戯言と忘れてくれ」
「ここだけの話とします。ただ殿、草履取りとなって以来、殿こそ生涯を懸け背中を追いかけたいご主人様と想い精進する日々でした。今もその意気込みで働いており申す」と藤吉郎は語った。
しばらくすると藤吉郎は、日頃のまじめな奉公ぶりと才知を活かした実績が評価され雑用係の小人から足軽へと昇格した。
ついに藤吉郎は武家への入り口に立ったのだ。藤吉郎は急ぎ帰宅すると寧々に報告をした。
「寧々様、母様、雑用の小人から武家の足軽組に昇格しましたぞ。どうじゃ、百姓からお武家様の仲間入りじゃ」
「それはお前様、おめでとうございます」
「藤吉郎が武家じゃと、信じられんわ」
偶然居合わせた小一郎がその報を聞くと、
「兄者、おめでとうございます。武士には興味はないが、儂でも兄者のようになれるかのう?羨ましい」と言って藤吉郎と抱き合い、皆で大いに喜んだ。
次回更新は3月2日(月)、19時の予定です。
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