「幸せになってね。一応そう言っておく」

「ありがとう。私も、一応そう言っておく。でも、幸せは難しそう。そんな気がする」

電話の後、親の目を盗んで、落ち合った。

竹林の小径、桂川のほとりを歩きながら、別れのさびしさで、会話は少なかった。

「足が、少し痛い。休もうか」

そんなに歩いていないのに、疲れる筈がない。それは、とっさに考えた口実だった。

通りから離れた、木の陰のベンチに座った。

いきなり、横からM子を抱き締めた。唇を合わせようとした。拒まれなかった。ほんの少しの間、無我夢中で口づけした。

「だめ。人が見てるわ」

あわてて周囲を見たが、人はいなかった。

「従兄妹同士なんだからね」

スカートを直しながら、小さな声で言った。

従兄妹同士――その言葉で、欲望はさめた。

M子の結婚式の前日、電話した。

「本当は、今君が目の前にいたら、押し倒して、強引に僕のものにしてしまいたい気分だ」

「嬉しい。あなたらしい、はなむけの言葉ね」

電話でよかった。会っていたら、その思いを実行していたかもしれない。

その日の日記には≪結婚とは、時には、法律が認めた強姦である。≫と、書きなぐった。

結婚式には、父母とともに招待されていたが、僕は出なかった。その夜、彼女が犯されていると想い、悔しくて眠れなかった。

M子のことは、その後も忘れられなかった。

そんな僕の様子を見て、母が、

「この世の中で、Mちゃんだけが女じゃないのだから。大学を卒業することだし、そろそろ結婚のことを考えなければいけないね」

次回更新は2月13日(金)、21時の予定です。

 

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