【前回の記事を読む】「お前は最高の女だ」妻に対してそう言い切った直後、胸を裂くような激痛で崩れ落ち、そのまま……
あの世で、君と結ばれる
次第に、明るくなってきた。まだ暗いのだが、最初に比べ、明らかに光が増えている。
歩みの遅い何人かの人を追い越した。追い越す時、その人の姿を見たが、いずれもぼんやりとした輪郭で、男女の識別すら出来なかった。何かベールのようなもので覆われているようだ。
「右へ行け」
突然、男の低い声が聞こえた。
それに従って、分かれ道を曲がった。すぐに出口があり、そこを出たら、見たことのある眺めが広がっていた。竹林の小径、桂川のほとり。遠くに修善寺。
あのベンチがあった。そして、M子とN雄がいた。
「やあ。パパだ」
「よく来ていただきました」
二人とも、喜んでいる。
「不思議そうな顔をしていますね。どうかしましたか」
「それがね、俺、死んでしまったみたいだ。暗いトンネルを抜けたら、ここへ出てきた」
俺は、よほど納得のいかない顔をしていたのだろう。
「何故、こうなったかがわからないということですか?」
「ああ」
「自分の立場が、まだ理解出来ていないようですね。あなたは、≪みたい≫ではなく、死んだのですよ。先程、奥さんから、主人がそちらへ行ったので、後はよろしくとのメッセージがありました」
「妻から? そんなことがあるのか。そういえば、あいつ、前に、≪M子さんの魂とも、話した≫と言っていたな」
「私達、とても馬が合い、魂と魂の回路がつながって、交信出来る。つまり、お互いの気持ちが通じ合うのですよ」
「信じられない。すごいことだ。いや、不思議なことと言うべきかな」
「ええ。以前から、奥さんには、本当によくしていただいています」
「どうやら、俺が死んだことは間違いなさそうだな。諦めるしかないのか」
「そうですね。往生際が悪いのは、いけません。自分が置かれた立場を、しっかりわきまえることです」
「でも、何故、ここへ来たんだろう」