その時、俺の耳に、懐かしい声が響いた。
「俺達も、お前の結婚に賛成だよ」
父の声。
「Mちゃんを、今度こそ幸せにしてあげて」
母の声。
「ありがとう」
天に向かって、大声で叫んだ。
「パパ、ママ、けっこんするの」
近くの草むらで遊んでいたN雄が戻って来て、大声で尋ねた。
「ええ。そうよ」
M子が、嬉しそうに、答える。
「よかった。みんなで、たのしくくらせるね」
俺は、N雄がはしゃぐ声を聞きながら、
「ところで、結婚式はどうするの?」
と、M子に聞く。
「浄土でやります。死んだ人達に、私達の結婚を披露する為に。修善寺で」
「修善寺?」
「浄土にも、修善寺があるのです。この世のものと全く同じものが」
「そうなのか」
浄土はすごいなと思う。
「さあ、暗くなったし、出発しましょうか」
最初に、M子の手が翼になった。
「ママ、とりになったよ」
驚いたN雄が、そしてFも、鳥になった。
「さようなら」
伊豆の街の明かりがきれいだ。
「バイバイ」
N雄が、翼を振っている。
三人が鳥になって、飛び立った。小さな鳥を真ん中に、ひたすら西へ。
それを見送る人がいた。Fの妻であった。泣きながら、手を振っている。
三羽の鳥が、寄り添って
夜空の果てに飛んでいく
はるか西方浄土を目指す
長い旅路、安らかであれ
≪了≫
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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