あの世で、君と結ばれる

父母の話によれば、俺は学生の頃、小説を書いていたそうだ。認知症のせいで、そのような記憶はないが、この家のどこかに作品があるのかもしれない。しかし、それを探す気力がない。記憶がないから、探す気力が起きない。どうやら、記憶と気力は、正比例するようだ。記憶も、一つの力である。

(これから書くあの真夜中の出来事の後、俺が探すのを諦めていた、その作品を妻が見つけてくれた。大学時代に書いたものだが、書いてあること、そして書いたこと自体、はっきり覚えていない。その内容が事実ならば、これから書く小説の、はるか前のことであり、深い関連があることなので、括弧付きで冒頭に掲げることにした。

以下、その若い文章を、恥じらいながら、そのままお目にかける。

【修善寺の愛

僕と同じ歳の、従妹のM子は、小さい頃から、よく伊豆赤十字病院の近くの我が家を訪れた。彼女の母の姉になる、私の母は中学校の教師で、彼女に週一で家庭教師をしていた。

「こんにちは」

M子の明るい声が響くと、胸がときめいた。

彼女は、子どもの頃から、きれいだった。僕の初恋の女性である。年頃になってから、お互いに関心を抱くようになり、時々会った。

しかし、従兄妹同士では結婚してはいけない、法律上は可能だけれど、おかしな子が生まれる可能性があると聞かされ、何度も抱くチャンスはあったが、そのたびに心の中で「従兄妹同士」と唱え、欲望をしずめた。

「やはり、従兄妹同士は、結婚しない方が良いみたいね。親以外の人からも、そう聞いた」

いつも行く、修善寺の境内を歩いていた。

「いや。結婚している人は、いっぱいいる。僕は、何としても、君と結婚する。死んで生まれ変わってでも、結婚する」

「韓国では、従兄妹の結婚は、だめらしいわ」

「ここは、韓国じゃない」

「親の反対を押し切って、無理に結婚しなくても、≪お兄ちゃん≫でいいじゃない」

「≪お兄ちゃん≫は、愛ではない」

「私、親の言うことに、逆らいたくないし。でも、あなたと一緒にいたいし」

M子は、悩んでいるようであった。

M子が静岡の短大を卒業する時が間近になった時、彼女から電話があった。

「卒業したら、すぐ結婚することになったわ。こんなに早いとはね。びっくりしている。親が決めたの。沼津の、お金持ちの家。写真では、悪い人とは思えないけど……」

「親達の差し金だな。僕らの関係を断とうとするたくらみだろうね」

「そうかもしれないね。あなたとは会うなと言われている。さびしいわ」

その後、私の親からも、同じことを言われた。双方の親達が、力を合わせていた。