【前回の記事を読む】別れ際に見せた“あの笑顔”は何だったのか――彼がふと見せた影のような眼差しが忘れられない

第二章 邂逅

三.四月四日(木)

四月に入った。関東に比べると、やはりこちらの春の訪れは遅かった。しかし、庭の枝垂れ桜にも、ほころび始めたつぼみがちらほら見え始めていた。

最近、ご近所さんが、ここから約四キロメートルのところに、高岡古城公園という古い公園があることを教えてくれた。

そこは、加賀藩の前田利長が築いた城跡が明治期に公園として開放され、後に国指定の史跡になったところで、桜の名所でもあるということだった。桜が好きで、歴史好きの私には、まさに絶好の観光スポットであった。しかも、歩いても、せいぜい一時間という近距離にあると思うと、直ぐにでも訪れたい気持ちが募っていった。

この日は幸い晴れていた。早速、私はスマホのナビを頼りに家を後にした。

久しぶりの晴天で、日差しも暖かかった。一時間が二時間になろうが、三時間になろうが、今の私には何の問題もないのだと思い、ゆっくりと歩いた。

家を出て十分。私は日差しを背に、大きな川に架かる橋の上の歩道を歩いていた。そのとき前方に一台の見慣れない車が横付けされた。そして助手席の窓が開き、聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。

「中山さん、中山さん、私です。大村です」

「ああ、どなたかと思いましたよ。こんにちは、一週間ぶりですね」

「これは社有車ですよ。先日はご馳走になりました。ありがとうございました」

「いえいえ、とんでもない。今日は古城公園までピクニックですよ」

「そうですか。じゃあお送りしましょう」

「えっ、大村さんはお仕事中なのでしょう」

「そうなのですが、今から古城公園の横を通って市役所に行くところなのです」

「それじゃあ、お言葉に甘えます」

私は久しぶりに歩いたため、実を言うと、たった十分余りで、すでに足が痛くなっていた。私にとっては、非常に良いタイミングでの彼の登場だったのだ。

車に乗ると古城公園はあっという間の距離だった。十分もかからぬうちに、彼は車を駐車場に入れた。

「いや、いや、ありがとうございました。正直言うと足が痛くなっていたのですよ。前田利長公にゆかりのある公園と聞いて、楽しみにしていたのですが、後先考えずに出発してしまいましてね」

私は照れ臭そうにそう言ったのだが、この日の彼は、また元に戻って厳しい目をしていた。