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六月初旬のことである。この時期は最も良い気候が続くとのふれ込みどおり、ロンドン市内は毎日好天が続いていた。飛行機はBAがとれたこともあり、宗像はロンドンに三日ほど立ち寄り、その後ポルトガルへ向かうことにしたのだった。
多くの市民はこの素晴らしい季節を迎えるために、雨、霧、北風、 湿気、そして鉛色の空や、毎日続く冬の寒さに耐えてきたのだろう。それほどこの季節は快い。市内あちこちの公園で、夥しい花々が彩り鮮やかに一斉に咲き零れ、突然初夏になったことを告げるのだった。
ロンドンには夕方着いたのだが、明後日の午後にはリスボンに移動することが決まっていた。明日の午後は、サザークにあるバンク・サイド発電所の跡地に新しく完成したテート・モダン美術館で、親友の心地顕に会うことを予定していた。
翌朝、宗像は少し早めに起きた。六階の部屋から見下ろすと、右手にはリージェント・パークの緑豊かな樹木がたおやかに連なっている。ホテルに接する道路際のコーナー部分を占める芝生の庭には、バラと思われる花々が一団となって寄り添い、自然の大モザイク画を作り出している。
何という好天だろうか。東側から陽光が室内に差し込んでいる。窓を開けると、初夏の爽やかな風が頬をなめてゆったりと後方に流れていった。
宗像は朝食もそこそこに済ませると、早朝の街を歩き始めた。辺りはレンガ塀の長く続く倉庫街のようだ。地図を見ると、この一帯の区画はグレー一色で塗りつぶされている。それは観光的には見るべき格別のものは何もないことを示していた。
エッジ・ウェア道路を右折して北西へしばらく歩くと、ホテル正面に接するセント・ジョンズ・ウッズ道路に出た。地図を広げて確認すると、この道路を直進すれば、ちょうど一回りしてホテルに戻れることが分かっ た。
腕時計を見ると、予定の時間にはまだ多少のゆとりがある。ふと気がつくと、道路を挟んで反対側の奥にあるのはカフェのようだ。近づくにつれて、そのカフェの隣に、小振りだが趣味の良さそうな画廊が店を構えているのが目に入った。