感嘆の声を上げると千晶は部屋に飛び込んだ。部屋には紋章のようなデザインが施された高級なデスクが中央に置かれており、その上には水が入ったピッチャーとグラスが置いてあった。その裏に回ると崇夫が床にひかれた絨毯の上に体の右側を下にして椅子ごと倒れ込んでいた。

「お父様! お父様!」

ひとみが駆け寄って何度も体を揺すったが、崇夫は力なく仰向けに転がっただけだった。

「どいて」

千晶がひとみを下がらせて診察を始めた。

「心肺停止! 救急車を呼んで。ひとみ、AEDがあるでしょ。持ってきて!」

千晶が心臓マッサージを始めるのを見てすっかり蒼褪めたひとみは目に涙を浮かべ、慌てて部屋を出て行こうとして、足立と鉢合わせになった。

「お嬢様……」

「足立さん、お父様が……」

ひとみの涙と部屋の中の様子を見て彼は愕然とした。

「旦那様……」

「AEDが必要なの」

「すぐに持ってきます」

彼は踵を返して走り去った。入れ替わりに騒ぎを聞きつけた貴子、直美、剛の三人が部屋に入ってきた。

「えっ、ひょっとしてほんとに0時に死んじゃったの?」

貴子が臆面もなく言った。

「やだ、怖い。あの占い師ほんとに当たるんだ」

直美は母親の腕にすがりきながら横目で心マッサージの様子を眺めていた。

「いい気味よ。私達に遺産を残さないなんてひどいことを言うから、きっと罰が当たったのよ」

貴子が毒づくと、ひとみが抗議した。

「罰だなんて! そんな酷い言い方やめてください!」

しかし彼女は聞く耳を持たず、「そうだ」と呟くとやにわにデスクの方へ走り寄り、次々と引き出しを開けて中を探り始めた。

「こんな時に何してるんですか」

「遺書を探しているに決まってるじゃない。さっきこの人、遺言書を書いたって言ってた。ほんとにそんなものがあるかどうか……あった!」

貴子は一通の白封筒を目の前に掲げた。確かに手書きで「遺言書」と記されていた。彼女がその封を開けようとした時、部屋の入口から大きな声が聞こえた。

「家庭裁判所の検認前に無断で開封すると5万円以下の過料が科されますよ」

見ると、手にAEDを提げた足立が立っていた。貴子は口惜しそうに遺書を元の引き出しに戻した。足立はすぐにAEDを千晶に渡した。

「これを」

「麻利衣、お願い」

「あ、うん」

彼女がパッドを貼り付けると音声案内が聞こえた。

「心電図を調べています。離れてください――心臓マッサージを再開してください」

「除細動の指示がないということは、心静止になっている可能性が高い」

額に大量の汗を掻きながら千晶が唸るように言った。

次回更新は2月4日(水)、21時の予定です。

 

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