そんなときに知り合った歌仙敷さんは、自分のことはまったく投稿しない。彼の投稿といえば、私への感想だけだった。
半袖になる頃には詠んだ句へのコメントの堅苦しさが砕けてきて、私も気安くコメントを返してやりとりをしていた。
『最高です。言葉のセンスがツボです』
『テレビとか見ますか? 何を見て考えてるのか気になります!』
『なぜ世界は染め衛門さんの才能に気が付かない?』
『ほんと推してます……早く本出してください買います』
浴びせてくれる言葉は面映ゆいものばかりで、嫌な気はしなかった。むしろ潤っていくような快い感覚さえあった。心地いい。
『染め衛門さんの短歌を仕事の合間に拝読すると頑張れます』
なんの仕事をしているのかなんて知らない。
深夜に更新すれば、しっかり寝てくださいとコメントが来た。そう言う彼──もしくは彼女──も大概な生活をしていそうだ。
『染め衛門さんが健康で更新してくれることで、推してるこちらとしても健康でいられます』
なんてメッセージが来たときにはラブレターかと思った。
画面の向こうの相手には触れられないけど、掛けられる言葉のおかげで愛を求めてバーカウンターに行かないで済んだ。喉が潤った。そういう意味では彼──もしくは彼女──は私の推しであるのかもしれない。健康であれよと思ってしまう。
一生会わないような人の幸せを祈ることは、死ぬまで触れられない星に願いをかけることみたいだ。なんて知らないその姿を夜空に描いた。
*
『フォロワー!! 都内の短歌好き!! 二十人まで行ける居酒屋十九時から押さえたので自由に来い!! 会費制三千円!』
それから日付と店名を載せて、惨状院さんが投稿した。
行きますねとコメントをして、会費の三千円を封筒に入れて準備した。
当日駅を出てお店の前に着くと、十五人ほど集まっていた。全員男性だった。
相互フォローに女性だと思っていた人がいたから来たのに。うーん、しまった。
さすがにこの集団に飛び込むのは蛾(が)の火に赴くが如しと言った感じだ。とはいえ来てしまったら火に手をかざすしかあるまい。
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