そんなときに知り合った歌仙敷さんは、自分のことはまったく投稿しない。彼の投稿といえば、私への感想だけだった。

半袖になる頃には詠んだ句へのコメントの堅苦しさが砕けてきて、私も気安くコメントを返してやりとりをしていた。

『最高です。言葉のセンスがツボです』

『テレビとか見ますか? 何を見て考えてるのか気になります!』

『なぜ世界は染め衛門さんの才能に気が付かない?』

『ほんと推してます……早く本出してください買います』

浴びせてくれる言葉は面映ゆいものばかりで、嫌な気はしなかった。むしろ潤っていくような快い感覚さえあった。心地いい。

『染め衛門さんの短歌を仕事の合間に拝読すると頑張れます』

なんの仕事をしているのかなんて知らない。

深夜に更新すれば、しっかり寝てくださいとコメントが来た。そう言う彼──もしくは彼女──も大概な生活をしていそうだ。

『染め衛門さんが健康で更新してくれることで、推してるこちらとしても健康でいられます』

なんてメッセージが来たときにはラブレターかと思った。

画面の向こうの相手には触れられないけど、掛けられる言葉のおかげで愛を求めてバーカウンターに行かないで済んだ。喉が潤った。そういう意味では彼──もしくは彼女──は私の推しであるのかもしれない。健康であれよと思ってしまう。

一生会わないような人の幸せを祈ることは、死ぬまで触れられない星に願いをかけることみたいだ。なんて知らないその姿を夜空に描いた。

『フォロワー!! 都内の短歌好き!! 二十人まで行ける居酒屋十九時から押さえたので自由に来い!! 会費制三千円!』

それから日付と店名を載せて、惨状院さんが投稿した。

行きますねとコメントをして、会費の三千円を封筒に入れて準備した。

当日駅を出てお店の前に着くと、十五人ほど集まっていた。全員男性だった。

相互フォローに女性だと思っていた人がいたから来たのに。うーん、しまった。

さすがにこの集団に飛び込むのは蛾(が)の火に赴くが如しと言った感じだ。とはいえ来てしまったら火に手をかざすしかあるまい。

 

👉『アイドルが私の短歌を推していた⁉~ミルクティー色の沼に溺れる~』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】彼は私をベッドに押し倒し、「いいんだよね?」と聞いた。頷くと、次のキスはもう少し深く求められ…

【注目記事】「若くて綺麗なうちに死んだら、あなたの永遠の女性になれるかしら?」「冗談じゃない」彼は抱き寄せてキスし、耳元に囁いた