第四章 班女
二人部屋に移って三ヶ月。透のリハビリは、相変わらず立位保持訓練で停滞している。自呼吸の訓練も、スピーチカニューレは装着したものの、管の中にある弁を閉めて話す練習をするのは体調が良い日を選び、時間も非常に短かった。
ちょっとでも痰が絡んだり、咳き込んだりすると中止。「気道確保は命に関わる装置だから」と慎重すぎるほどで遅々として進まなかった。長いこと、食べるにしても喋るにしても、一年以上も口のあたりの筋肉を使っていない。安定して自呼吸できる日など、本当に来るのだろうか。道のりは遠く思えた。
その日、まさ子は入院費を払うために外来会計に寄った。二人部屋になってから、月々の入院費は以前より十五万円増えている。加入していた透の医療保険から、入院一日あたり三千円の給付が出るが、全額はまかなえない。
その給付も永遠に続くわけではなく、七百二十日が限度である。自賠責保険の補償も百二十万円まで。この先どうなるのか。まさ子は不安で仕方がない。
ただ、夫の幹雄が何かにつけて「金はなんとかする」と言ってくれ、昨日も銀行から二十万円を下ろしてきた。
「お前はとにかく透のそばにいろ」
ぶっきらぼうな夫だが、自分が透を最優先に考えて過ごせるのは、その言葉があるからだ。今日も無事に支払いを終えられることがありがたかった。
ふいに、女性の金切り声が耳をつんざく。
「放して! 通してください!」
次回更新は1月19日(月)、14時の予定です。
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