「常識よ。そりゃあ最初は、いただけませんって断るけど、三回くらい押し問答すると、じゃあって受け取るから。やってごらんなさいな。そういうことが、日々の看護の質につながるから。……まあ、透くんママはずっと付き添ってるから、ナースたちも邪険にできないのかもしれないけど、あたしは仕事でなかなか来られないし。
何かあったらすぐに連絡もらうようにお願いしてるの。そして、今日みたいに部屋を移るのなんのという時は、無理してでも足を運ぶ。もちろん、そのたびに担当のナースさんには、必ずアレをする。高いものじゃないけどね。人間、やっぱりモノをもらった人には親切にしたいじゃない。私は絶対に達也を守りたいから」
まさ子は、友美の言うことにも一理ある、と思った。友美は友美で息子を思って一生懸命なのだ。さっきの〈噂話〉も、無責任なお喋りではなく、少しでも危険があるならそこから息子を遠ざけようとする親心と思えば、また違って感じられる。
「そこまで考えたこと、なかったわ。……偉いのね」
「そんなー。でもまあ、苦労してるから。なんせ十八歳のデキ婚で、おまけにバツイチですからね!」
友美はそう言って、バッグの中から小さな袋とメモを出し、まさ子に渡した。
「これ、受け取ってもらえます? おやつにでも食べて。このクッキー、けっこう美味しいの。そして……何かあったらこのメモの番号に、連絡くれますか? すぐに駆けつけるから」
友美は、袋を受け取ったまさ子の手を両手で握って頭を下げた。
(さっき『付け届け』の話をしたばかりなのに)
まさ子は、苦笑しつつも、そこに友美の信念を見たような気がした。
「わかったわ。お互いに、助け合いましょう」
「良かったー。同室が透くんママで、本当によかったわー。達也のこと、よろしくお願いします!」
達也を守りたい、と言った友美の心が、この小さな菓子包みに込められている。母の思いは皆同じだ、とまさ子は思った。