「わかりました! ありがとうございます!」

本間がすかさず言質(げんち)を取る。

「じゃあ、二人部屋にお移りになる、ということで」

「え……?」

まさ子は不意を突かれた。彼女の頭には、もはや「退院」「自宅療養」しか残っていなかったのだ。

「……そうでした、その話でしたね。あの、二人部屋って差額ベッド代が必要なんですよね?」

「一日五千円です。……経済的にお苦しいですか?」

「はあ。加害者が保険に入っていなくて」

「八人部屋なら空いています。そちらに移られますか?」

本間が提案すると、坂本が難色を示した。

「あそこは……脳外科の入院病棟じゃないでしょう」

すると本間はキッパリと反論した。

「経済的に苦しい方には、どの科の患者さんでも使えるようになっているだけで、脳外科の患者さんもたくさんいらっしゃいますよ」

坂本は、そのまま黙ってしまった。

八人部屋、と聞いて、まさ子の脳裏には最初に入ったリカバリー室が目に浮かぶ。

(きっと古い病棟なんだ。またあんな思いをするのはイヤ! あそこは絶対にイヤ!)

「わかりました。透の医療保険の方から少しは給付金が出るので、二人部屋に移ります」

坂本はほっとしたような顔をした。本間は一枚の紙を取り出して言った。

「では城田さん、この用紙にサインをして後でナースステーションにお持ちください。お部屋は今日中に移動しますので、荷物などの整理をよろしくお願いします。二人部屋はいいですよ。空間が広い。透くんも喜ぶと思います」

万事うまくいった、というように、本間は笑顔だ。

まさ子は坂本に向かって念を押した。

「退院も見えてきたんですよね?」

坂本は、大きくうなずいた。が、言葉は発しなかった。

次回更新は1月17日(土)、14時の予定です。

 

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