「ホイ、忘れておった」

一枚の、小さな葉っぱを紙袋(かみぶくろ)から取り出した。

「時間がないから、言ってしまうけれども、これはカエデの葉っぱです。カエルの手に似ているからカエルの手、つまりカエデです」

「アハハハ、バカみたい。そうだったのか。単純(たんじゅん)だなあ」

「ケケケケ、よくも、カエデなどという名前を付けたもんだナア」

生徒たちは、面白くて仕方がなかった。清水先生の教えによって、山野草の知識(ちしき)が次々に広がっていった。

学校でどんなことを教わっていようが、親は、自分の子供の高校生活には殆(ほとん)ど関心(かんしん)を持っていなかった。ただ、高校卒業の卒業証書をもらうだけで十分だった。

ところが、最近、生意気盛(なまいきざか)りの我が子が家に帰って食事の時など、健気(けなげ)な小学生のような表情(ひょうじょう)を作り、清水先生の授業が面白いことや、教えてもらった「山野草」の話を面白可笑(おもしろおか)しく、明るく話をするので、あまりの変わりように驚くとともに、親もつい笑ってしまうことが多かった。

「どの先生が、うちの子をこんなに変えてしまったのだろうか」

清水先生に教わっている大山達郎(おおやまたつろう)という生徒が、休みの日に自宅の裏庭(うらにわ)から、小さな白い花の咲いている野草を採ってきて、「母ちゃんも父ちゃんもこの植物の名前を知らないだろう」と言って、今まで見たこともない前向(まえむ)きで得意満面(とくいまんめん)な顔付(かおつ)きをした。

次回更新は1月28日(水)、11時の予定です。

 

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