【前回の記事を読む】「数学の勉強をしてみたらどうだ」——数学の先生は私の性格にピッタリだと言った。理由は、数学は嘘をつかず普遍性があり…
二 清水の爺ちゃん高校の先生になる
「そうだったのか。面白い先生だ」
こうして、清水先生は教師としてのスタートを切った。
生徒たちは勉強が好きではなかった。
生徒たちは全員親から、
「今の時代、高校ぐらい卒業しないとどこも雇(やと)ってくれないし、働き口(ぐち)なんかないよ」
と言われて、渋柿(しぶがき)の渋のように実(じつ)に渋々(しぶしぶ)と、この高校に入学したのだった。
入学式の時、校長先生は新入生や保護者に向かって大きく胸を張った。
「当校(とうこう)の生徒には、落ちこぼれは一人もおりません。大丈夫(だいじょうぶ)です」入学式会場に「ホッ」と柔和(にゅうわ)な安堵(あんど)の空気が流れた。
親の多くは、高校さえ卒業してくれたら、それだけでもう十分と考えていた。
ここの生徒たちは、勉強するためではなく、どこの高校よりも立派(りっぱ)で見事(みごと)に美しく作成(さくせい)された「卒業証書(そつぎょうしょうしょ)」を得るために学校に通っているのだった。
どの年度の生徒たちも勉強への取り組みが極端(きょくたん)に悪く、勉強しようという意欲(いよく)がほとんどなかった。
でも、どの科目の単位(たんい)取得(しゅとく)も心配なかった。
教師はその時期になると、絶妙(ぜつみょう)な技(わざ)で中間・期末テスト範囲 (はんい)を匂(にお)わせるなどではなく、はっきりと明確(めいかく)にしつこいほど全部教えてくれた。生徒たちは大船(おおぶね)に乗ったように、授業中は安心して寝込む時間となった。