「岩下さんの仕事はどうするんですか?」

「こっちで引き取るよ。だから大丈夫」

「それじゃ終わらなくないですか?」

「いいの、それが私の仕事だから」

千春がそう断るも、礼はデスクでパソコンを開いた。

「こっちのプロジェクトは俺が引き継ぎます。岩下さんから業務については色々聞いていたので」

「え? それはずっと岩下君が担当していた気がするけど……」

「業務が属人化してるなと思って、勝手に整理してたんです。社内wikiにマニュアル化して上げておきましたよ」

礼は千春も知らないところで部署の業務整理を行っていてくれたらしい。そう言われて社内wikiを確認すると、部門の人間にだけ見られる権限を付与されており、そのマニュアルを閲覧できるようになっていた。

「……こんなこと、業務の間にやってたの?」

「はい」

「でも、結構仕事量あるよね?」

「そうでもないですよ。社内のやり取りは最小限にして、何度も行われるやり取りはテンプレ化していけばいいし。わからないところは岩下さんが積極的に教えてくれました。あの人、人になにかを教えるのは好きみたいですから」

そう言われれば岩下はそういうのが好きなタイプに見える。それと同時に、自己顕示欲と承認欲求が強いことを知っていたのに、やはりSNSの運用業務は彼が承認欲求を満たすためにも必要だったのかもしれない、と思う。

「……すごいね、吉川君」

「普通ですよ。でも、見直してくれたならうれしいですけど」

礼は少し笑って、そう答えた。

それからしばらく2人で残業し、同じフロアに人はいなくなった。ここまで礼が残業するのは珍しい。

(よっぽど、私が参ってるってのが伝わっちゃったのかな……)

そうだったら申し訳ないとも思う。部下に気を遣わせてしまったことに罪悪感を覚えた。

「水瀬さん」

「ん? 何かわからないところでもあった?」

「いや。岩下さん、しばらくは会社来ないと思います」

「えっ? なんで?」

礼は少し気まずそうな表情をしたが、周囲に誰もいないのを確認すると口を開いた。

「俺に色々愚痴ってましたから。元は部長クラスで採用されたはずなのに、女に場所を取られたって」

「え……」

次回更新は1月22日(木)、11時の予定です。

 

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