【前回の記事を読む】「女性として訳あり商品だと思う」「事前に伝えないと詐欺と同じ」片方の胸がない事実を彼に打ち明けようとするが…
訳アリな私でも、愛してくれますか
「まぁ、暴言の内容については『死ね』『無能』『殺すぞ』などと言われたと言っているし、さすがに私達も水瀬さんがそういうことを言うことはないだろうとは思っていますが、他の件についてはどうでしょうか」
「……彼が、そう思っていた可能性はあるかも知れません」
「というと?」
「……正直、私から業務をわざと振らないとか、残業に付き合わせるとか、差別をしているとか、そういうことをした認識はありません。ただ、いつだったか……先日、岩下君が残業してオフィスを出る際、先に帰るというのでどうぞと言ったら、だったら早くそう言えよ、という主旨のことを言われた覚えがあります。彼は独り言のつもりだったと思いますが」
千春が正直にそう打ち明けると、人事部長は大きくため息をついた。
「彼のほうが部下で、水瀬さんとは力関係がある。水瀬さんにそういう認識がなくても、彼のほうがそう感じる可能性があったのではないか?」
「……」
「うちはコンプライアンス遵守を掲げている。そちらの部では最近コンプライアンス違反に該当するSNSの炎上問題も起きたね」
「はい」
「こちらも後日、別の社員への聞き取り調査などを詳しく行うつもりでいる。明日中に本件に関する報告書を書いてくれ」
「……わかりました」
「彼には不眠の症状があり、人事からは精神科や心療内科の病院での受診を勧めておいたが、そこでうつや適応障害と診断されたら休職となる可能性が高い。ご自身のためにも、もう少し身の振り方を覚えたほうがいいのではないかな」
「……はい」
千春は悔しい気持ちを胸にためてできる限り表情に感情が現れないようにした。ここで妙な態度を取れば不審がられてしまう。自分は間違ったことをした覚えはないのだから堂々としていればいいと思うのに、どうしても不安とやり場のない悔しさで胸が押しつぶされそうだった。
人事からの聞き取りは1時間に及び、千春がオフィスに戻った頃には定時を過ぎてしまっていた。帰ろうとしていたらしい礼が席に戻ってくる。
「岩下さんの件、ですよね。決着つきましたか?」
「いや……まぁ、まだわからないかな。まぁ、吉川君は気にしないで」