それからは、すべてがなくなった。なにも楽しくなくなった。本当に僕はサッカーに生きていたんだなと改めて知った。そして、自分の人生の一部分がサッカーだと思っていただけに、『自分の人生=サッカー』であった自分自身を呪った。

校門を抜けると、保健室で会った彼女が校門にもたれかかっていた。

「どうしたの?」

咄嗟に声をかけてしまったが、なぜそうしたのかはわからない。

「ああ、野上くん。またちょっと貧血になって」

彼女の顔は血の気がなく、声も弱々しい。

「どうしたら治る? 保健室行く?」

彼女はぶんぶんと力なく頭を振った。

「しばらくこうしてたら治るから大丈夫だよ。ありがとうね」

そうは言ったものの、まったくそうは見えない。

一旦出た校門から、また学校の敷地に入り、そばにあった花壇の淵に座らせる。

「水取ってくる。ちょっと待ってて」

校庭の蛇口を捻り、水を出す。自分の水筒いっぱいにそれを注ぐと、また彼女のもとに戻った。

「これ、飲める?」

薄目を開けた彼女は、「ありがとう」と言って、水を飲んだ。貧血の人に対して、この処置で合っているのだろうか。咄嗟の行動に走ってしまったが、この行動が正しいのかわからない。

ただ僕の心配をよそに彼女は、なんの知識もない素人が見てもわかるくらいに、徐々に明るい表情を取り戻していった。ほんのわずかに唇も赤く色づいてきたように見える。

「ごめん、ありがとう。助かったよ」

ほっとした表情で水筒を手渡す彼女を見て、僕は重大なことを思い出した。僕が昼間に飲んだ水筒に、彼女が口をつけたということは……。その瞬間、また一気に身体が熱くなった。昼間の保健室のときとは比べ物にならないほどの熱さだった。

次回更新は1月6日(火)、11時の予定です。

 

👉『僕が奪ったきみの時間は』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】翌朝「僕はどうだった?」と確かめると、「あんなに感じるものなのね。昨日の夜は初めてとろけそうなくらい…」と顔を赤くして…

【注目記事】母さんが死んだ。葬式はできず、骨壺に入れられて戻ってきた母。父からは「かかったお金はお前が働いて返せ」と請求書を渡され…