【前回の記事を読む】仮病を装い保健室へ。ベッドに腰掛けると隣のベッドのカーテンが開いた。そこにいたのはクラスメイトの隠れ美少女で…
第一章
「もしかして、わかる?」
「うん。すぐわかった」
「まあ、あれだな。サボりだな」
僕が開き直ると、彼女は小さな声でくすくす笑う。この保健室には二人以外、先生も生徒も誰もいないのに。
「サボりたくなるとき、あるよね」
「うん、しょっちゅうだよ」
また彼女はくすくすと笑う。不思議な感じだ。初めて話したクラスメイトなのに、まるでずっと前から知り合っていたみたいに普通に話せる。
「緑川さんは? 体調悪いの?」
「そうだね。ただの貧血だけど」
「そうなんだ」
「昔からなんだ」
「え?」
「昔から貧血持ちなの」
「そうなんだ」
彼女はうかない顔で答えた。返す言葉が見つからない。こういうとき、なんと返すべきなのだろうか。柳原を前にしたときは、あんなにすっと言葉が出てきたのに、不思議なものだ。
そして僕は彼女にかける言葉を探しながら、身体が熱くなっていくのを感じた。熱、なんで? 冬なのに。まさか本当に体調が悪くなってきた? いや、違う。これは体調不良のときとは、まるでかけ離れた火照り方だ。音を立てて胸が動き出す。二人しかいない、誰にも邪魔されないこの環境が僕をそうさせているのだろうか。
ほとんど話したこともないクラスメイトを前に、これまでに身体に感じたことのない違和感を抱く。なんか、言葉にできない、変な感じだ。
それからは話すこともなくなって、黙ってベッドに寝転んだ。彼女もそうした。でも、僕は眠ることができなかった。
放課後、サッカー部の練習を横目に下校する。
「優、お疲れ」
サッカー部で隣のクラスの志村(しむら)が声をかけてくる。強力なディフェンダーで他校からも嫌がられる存在だ。