【前回の記事を読む】1人娘で門限は19時。男との交際も禁止されていた。社会人になって彼氏ができると探偵を雇って素行調査され…
サイコ1――念力殺人
麻利衣が驚いて振り向くとそこには白い花柄のワンピースを着た賽子が壁に寄りかかり、腕組みをして立っていた。
「あなた、どうやって入ってきたんですか!」
「昨日私の能力は見ただろ」
「私の部屋もピッキングしたんですか。これは立派な不法侵入ですよ。警察を呼びます」
「ピッキングではない。超能力(フォルス)だ。それより決心はついたか」
「決心? 何のことですか」
「林良祐を殺した犯人が誰なのか知りたくないのか」
麻利衣は溜息をついた。
「まだそんなこと言ってるんですか。この間も言ったとおり、それは警察に任せておくべきです。あなたみたいな詐欺師にびた一文払いませんから」
賽子は部屋をぐるりと見回して言った。
「確かにおまえのような文無しに高額な報酬を支払わせるのは酷だ。それなら条件を変えよう。私が犯人を当てたらおまえは私の助手として働く。どうだ? 悪い条件ではなかろう」
「は? そんなこと勝手に決めないでください。そもそも私、詐欺の片棒なんて担ぐつもりはありませんから」
「助手の給料として月30万出そう」
「30……いや、お金の問題じゃありません」
「本当にそれで大丈夫か? 医学生というのは普通の学生と違って一般社会の常識がほとんどないと聞く。普通の会社に勤められるほどのスキルが今のおまえにあるか? 国試に2浪した何のキャリアもない人間をそう簡単に雇ってくれる会社があるとは思えないが。
家賃を少しでも滞納したらここにも住めなくなる。もう貯金もあまりないはずだ。それとも北海道の母親に泣きつくつもりか?」
「そんなことあなたには関係ないでしょう!」
麻利衣は顔を真っ赤にして抗議した。
「後日関係者を呼び出し、犯人を指摘するつもりだ。もしそれが的中したらおまえには私の助手になってもらう。楽しみだな。行くぞ、ドクトル」
賽子はそう言って背を向け部屋を出て行き、テーブルから下りた黒猫が慌ててついていった。
「何あいつ。絶対あんなやつの助手になんかなるものか」
麻利衣はしばらく憤慨していたが、ふと思いついたように押し入れの中で捜し物を始め、一冊の古いノートを取り出し、テーブルの上でそれを読み始めた。
林良祐の家の周辺では羽牟と鍬下が地取りに回っていた。
「特に有力な情報はないようですね」
鍬下が言った。
「そのようだね。でもほら、林さんのすぐ近くの家でさっき留守にしてた所があったよね。もう帰って来てるかもしれない。もう一度行ってみよう」