二人は林家の駐車場の北側に面する吉田家を再度訪れた。チャイムを鳴らすと今度は老婦人が玄関に出てきたので、羽牟が警察手帳を見せた。

「すみません、警察の者です。昨日の林良祐さんの事件で少しお話をお伺いできますか」

「ああ、本当に怖いですね。こんな近くであんな恐ろしい事件が起こるなんて」

吉田は半分だけ開けた引き戸の向こうで言った。

「亡くなられた林さんのことについて何かご存じじゃないですか?」

「お母さんとはね、よく話をしていたんだけど、息子さんとはね、ほとんど話をしたことがないんですよ。でもご両親は、息子さんが大学受験を失敗してから部屋に引きこもるようになって、それを注意したら今度は両親に暴力を振るうようになって本当に悩んでいたみたいですよ。

それで結局最後は二人とも自殺しちゃってね。かわいそうでしたよ。いつだったかな。外で息子さんにばったり会ったので『大変でしたね』って声をかけたら物凄い形相で睨まれて怖くなって逃げ出したことがありました」

「林さんは誰かに恨まれたりとかトラブルとかなかったですか?」

「この周りの人は怖がって人づきあいをしなかったからね。分からないですね」

「そうですか。ありがとうございました。他に何か気づいたことがあればご連絡ください」

羽牟は吉田に名刺を渡し立ち去ろうとした。

「あ」

刑事たちは彼女の声に振り返った。

「どうされました?」

「いや、これは関係ないかもしれませんけど、3月9日の日曜日の夜中に不思議なことがあったんですよ」

「何ですか?」

「その日は午後9時には床について眠っていたんですが、真夜中の12時くらいだったかな、突然工事の音が始まったので目が覚めたんです」

「工事?」

「はい。林さんの家の方から聞こえてきたんですよ。何でこんな真夜中に工事なんかするんだろうと思ったんですが、すぐに終わったのでそのまま眠っちゃったんです。でも翌日周りを見ても工事をした跡なんてないし、誰に聞いてもその日に工事の予定なんかなかったって言うんですよ。あれは一体何だったんでしょう?」

「そうですか。こちらでも調べてみます。ありがとうございました」

二人は礼を言って辞去した。

「何でしょう?」

鍬下が言った。

「さあ。ご高齢だから勘違いかもしれないしね」

羽牟はそう答えたが、鍬下は納得がいかない様子だった。その時、羽牟の携帯が鳴った。

次回更新は12月31日(水)、21時の予定です。

 

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