文化の日
玄関に簀子(すのこ)が置いてある。段差が大きい場合など、靴を脱いだらいったん簀子に上がる。小中学校の頃は下駄箱の前にあって、目すき板と呼んでいた。
外国人が来訪する機会が多くなった。中にはかなりの日本通がいる。家に上がる際、靴を脱ぐのが当たり前の日本。最近は抵抗なく靴を脱いでくれるが、靴で簀子の上に上がり、そこで靴を脱ぐ人がいるかと思うと、地面で靴を脱いで汚れた靴下で上がってくる。日本通の外国人といえども、簀子は家の内なのか外なのか判別しがたいのだろう。
日本家屋の障子。閉めてあっても部屋は明るく、和紙が湿度調整の役割もしてくれ、空気や音を遮断することはない。扉を閉ざせば内部で何をしているかわからない洋間と違って、日本家屋は家全体に空気の流れがある。
西洋の石造りの家から強烈な日差しの屋外に出る感覚は、まさに黒から白へ反転するイメージであるが、日本家屋の場合は、間にグレーゾーンがある。かつて西洋史の先生からそう教えられた。どの家にも軒があり、光がさしているようでさしていない場所があり、縁側は家の中でもあり外でもあり、その中間ゾーンが人間生活に生かされている。
疑惑絡みの事件には黒白をつけるべきだが、中間色の部分は日本人に合っているように思う。これが文化だとしたら、畳も障子も、和室もない住宅が増える昨今、生活様式の変化が日本人の文化にどう反映されていくのだろう。
(二〇〇九・十一)