「あ、こちらは鍋本彩斗。医療機器販売の会社で営業をしているの。父の病院にもよく出入りしていて、それで私達知り合ってつきあうことになったの」
「つきあうって、林良祐は……あっ」
麻利衣は思わず口に手を当てた。
「大丈夫よ。彼は良祐とのことも最初から全部知ってる。彼の方から私とつきあいたいって言ってきた時に良祐のことを正直に話したの。そしたら彼はそれでも私とつきあいたいって言ってくれて。それで私思い切って良祐に別れを切り出したの」
「だけどそれで君があんな怖い思いをするなんて思いもしなかった。何もしてあげられなくてごめん。それにしても誰に殺されたのか知らないが、あんな奴は死んで当然だ。何の憐みも感じないね」
「えっ、何で殺されたって知ってるんですか?」
麻利衣が言った。
「夕方のテレビのニュースでもやってたし、ネットでもえらい騒ぎになってますよ。家は密室だったのに無数のナイフで壁に磔にされていた奇妙な殺人事件だって。中には超能力者による殺人だって騒いでいる馬鹿もいるらしいけど」
「まあ確かにそんな馬鹿を私も知っています」
「千晶、さっきまでお母さんと一緒だったんだけどいつ終わるか分からなかったから僕が言って先に帰ってもらったんだ。ご両親ともすごく心配していたよ。すぐに家に帰った方がいい。僕が送っていくよ」
「両親には良祐のことは……」
「大丈夫。話していない」
「よかった。刑事さんにも私が良祐とつきあっていたことは両親には内緒にしておいてほしいと頼んだの。麻利衣もお願いね」
「もちろんよ」
「ところで沙織さんがもしよかったら那花さんも一緒にいらしてくださいとのことです。夕食を作って待っているからと」
鍋本が言った。
「え、私? いいんですか?」
「いいに決まってるじゃない。麻利衣は実家は北海道だからこんな時頼りになる家族も近くにいなくて不安でしょ。私も麻利衣が来てくれると嬉しい。そうだ、今夜は家に泊まって行きなさいよ。どうせ明日も予定はないんでしょ」
「そりゃそうだけど……じゃ、御馳走になるか」
二人はようやく笑顔を見せながら鍋本の車に乗り込んだ。その様子を玄関の前に佇んでいた賽子が切れ長の目でじっと見つめていた。
次回更新は12月27日(土)、21時の予定です。
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