【前回の記事を読む】「よっぽど恨みがあったか」…男性の遺体に残された形跡から、死後も執拗にナイフで体を刺され続けていたことがわかった。

サイコ1――念力殺人

「だ、だからと言って」

麻利衣は顔を真っ赤にして反論した。

「あなたの超能力が真実である証拠もないですよね」

しかし賽子は平然と答えた。

「だからそれを証明してやろうと言っているのだ」

麻利衣は頭の天辺から湯気が出そうな程いきり立った。

「あなたがそんなに自分の超能力を主張するのなら、私達の目の前でそのサイコキネシスとやらを見せてください。自分の目で確かめたらあなたのことを信じます」

「見せてやってもいいが、サイコキネシスは超能力の中でも高等技術で精神エネルギーを相当消費する。1000万は支払ってもらうがそれでもいいか?」

「1000万! もういい。こんな詐欺師に依頼したのがやっぱり間違いだった。千晶、行こう」

麻利衣は千晶の手を取ってその場を去ろうとした。

「ナイフは身体とは全く離れた所にも突き刺さっていた」

賽子が二人の背中に大きな声を浴びせた。二人は思わず立ち止まった。

「犯人が彼を直接刺したのならそんな無駄なことをするはずがない。サイコキネシスでたくさんのナイフを同時に飛ばしたから外れたものも出てきたのだ。ただこの犯人はあまり大した超能力者(サイキック)ではない。私なら全てのナイフを命中させることができただろう」

麻利衣は再び千晶の腕を引っ張って玄関に向かった。

「刑事の話では」

再び賽子が大きな声を出した。

「玄関の防犯カメラには被害者以外誰も映っていなかったそうだ。勝手口もなく、窓は全て内側から鍵が掛かっていた。これこそサイコキネシス殺人の紛れもない証拠だ」

「馬鹿々々しい」

そう吐き捨てると麻利衣は千晶と一緒に警察署の玄関を出た。そこへスーツ姿の背の高い端正な顔立ちの男が駆け寄ってきた。

「千晶、大丈夫か?」

「彩斗、来てくれたのね」

「え?」

麻利衣は見つめ合う二人の顔を怪訝そうに交互に見返した。