東たちは自動販売機とテーブルが並べられている休憩室に場所を移した。

「死神か……。こんな話を信じるなんて俺もヤキが回ったのかもしれんな」

「心中お察ししますが、東様、これは現実です。私も、あなたも、現実にここに存在しています」

「そちらの女性は?」

「お構いなく。私の部下です」

 何かを言いたそうな素振りを見せる葵だったが課長が手で制する。

「何点か質問させてくれ。キミたちは何者で、どこから、誰に頼まれて来た。目的はなんだ」

「先ほども申しましたように、私は死神です。場所は明かせません。依頼主は東康介さん、あなたです」

「ナメられたもんだな。どこで名前を知ったのかこの際どうでも良いが、依頼主が俺だというのはどういうことだ」

「あなたは先ほど、自分の命を差し出してでも奥様の命を救いたい。そのように考えませんでしたか?」

東は葵でも分かるほど雄弁に『なぜそれを知っている?』と目で言った。決して暖房は強くないのにこめかみには汗も浮かんでいる。喉がカラカラだ。そのせいでまた咳が出て、たまらず葵が彼の背中をさすった。

「お風邪ですか?」

「いや、大丈夫だ。ありがとう。すまない、話を続けてくれ」

「最後の質問にお答えします。私の目的、というより役目は、死に瀕した人物を第三者の命で以て生き長らえさせることです」

「……すまないがもう少し分かりやすく言ってくれないか。ここ数日のことで頭がパンクしそうなんだ」

「端的に言いますと、あなたが死ねば奥様は助かるのですよ」

今度は葵が目をひん剥いた。しかし対照的に東はさして驚きもせず「俺が死ねば、か」と呟いた。

「どうやら俺はまだ夢を見ているらしいな。とびっきりの悪夢だ」

そして東は「無駄な時間を過ごした」と言いながら椅子を雑に引いて立ち上がった。

次回更新は12月27日(土)、11時の予定です。

 

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