「増田は3月9日から今日までのアリバイは固そうだね。ちゃんと病院に勤務しているし、ほとんど寄り道せず自宅に帰っている。父親は増田脳神経外科病院の理事長で自宅は世田谷の豪邸。防犯カメラがあるそうだからそれが確認できれば無実は実証されそうだね」

「増田が首謀者で那花が実行犯の可能性は?」

「彼女は週2回家庭教師をする以外は自宅に引きこもっているみたいだ。一人暮らしだからアリバイはない。しかし、いくら友人に頼まれたからってあんな残虐な方法で人を殺すような子には見えないからね。あのオカルト娘の方はどうだった?」

「自分を超能力者だと思い込んでいるみたいです。家に侵入する前から透視で林が死んでいることは分かっていたと。相変わらず林は超能力で殺されたと信じているみたいですね」

「精神科の通院歴や薬物使用の可能性は?」

「精神科の通院歴はないようです。薬物検査もしましたが陰性でした」

「どうする? 増田と那花は一旦帰すしかないと思うけど、河原は住居侵入罪で引っ張れるよね。ピッキングで鍵を開けられたということは彼女が犯人という可能性もあるし」

「彼女はもう帰しました」

「えっ、何で? 僕に相談もなく?」

「本庁からハムが来たんです」

「えっ、公安? 何で?」

「それはこっちが知りたいですよ。どこで聞きつけたのか分かりませんが、取り調べ中に邪魔されて、『河原賽子に関しては自分達が扱うから手を出すな』って一方的に言われて。署長も了承済みでしたから何も言えませんでした」

羽牟は顎先を指で捻った。

「ひょっとすると彼女、カルト宗教の一員なのかも。公安って一課だったろ?」

「いえ、それが外事第三課でした」

「外三? 外三って国際テロ捜査担当だよ。ええっ?」

羽牟は頭を掻き毟った。

「羽牟さんが取り調べ中に鑑識から報告がありました。家の中には林と増田の指紋しか残されていませんでした。凶器のナイフには林の指紋だけ。血痕は殺害された部屋からしか検出されていません。

犯人はおそらく手袋をしていたんでしょうが、あれだけの血の海になったら普通足跡を残しそうなもんですが、よっぽど用心深い奴なんでしょう。靴下を履き替えて、現場の足跡も消したと思われます」

「足跡から特定されると思ったのかな」

「それと林のスマホですが壊れていて再起動できないそうです。今、科捜研がデータを復旧できるかやっているところです」

「犯人が壊したのかな」

「どこにも傷が見当たらないようですから物理的に破壊されたわけではないようです。でもそれより奇妙なことが」

「え、まだあるの?」

次回更新は12月25日(木)、21時の予定です。

 

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