【前回の記事を読む】「不幸で無能な女募集」…変な求人広告が気になって訪ねてみると、場所はタワマンの最上階。インターフォンから返事はなく…

サイコ1――念力殺人

麻利衣がドアを開けて階段を降りようとした時、女が言った。

「それでこれからどうするんだ? 医師国家試験を2浪して家庭教師のバイトもクビになって、来月のマンションの家賃も払えるかどうか怪しいところなのに」

麻利衣はぞっとして振り返った。

「どうしてそのことを! 私のこと調べたんですか!」

女は口元に不遜な笑みを浮かべて言った。

「調べる? さっきも言ったとおり、私は完全能力者(パーフェクトサイキック)だ。調べる必要もなく、おまえのことなら手に取るように分かる」

「さっきでたらめなこと言ってたじゃないですか。私は31歳ではないし、B型でもありません」

「さっきは別の人間と勘違いしただけだ。おまえは25歳、蟹座でA型、出身地は北海道の美瑛。どうだ」

「そ、そんなことまで調べたんですか。あなたは私を騙そうとしているんでしょ。私、そんなペテンに騙されるような人間じゃありません。帰ります」

急に恐ろしくなった麻利衣は慌てて階段を駆け下りていった。足元にまとわりつく黒猫を拾い上げ胸に抱いて、それに語りかけるように女が言った。

「大丈夫よ、ドクトル。彼女は必ず戻ってくる」

随分遠くまで来てしまったので、麻利衣はバスで帰るしかなかった。暮れなずむ窓の外の景色を見ながら、先程起こった不可思議な出来事について考え込んでいた。あの女はきっと詐欺師に違いない。

最初から私をターゲットにして素性を調査し、あの橋の上で偶然を装って男にぶつからせ眼鏡を壊した。そしてその後にあの求人広告を私の顔面に向けて送風機で吹き飛ばした。

自分がもう少し賢くなければうっかり信じてしまうところだった。それにしても何故私なんかターゲットにしたのだろう。素性を調べたのであれば財産なんかないことも分かっていたはずだし、まさか性風俗の店にでも売り飛ばすつもりだったのだろうか。そんな需要があるような容姿ではないのだが。

しかし、それにしても綺麗な人だったな――。麻利衣は彼女の姿を思い出すと再び陶酔し、畏怖しながらももう一度会いたいという不思議な欲求に駆られた。

その時大学時代の親友、増田千晶からメールが来た。

千晶――どうだった? 国試

麻利衣――またダメだった(T_T)

千晶――そうか……ドンマイ。来年はきっと受かるよ

麻利衣――私、もう医師諦めるかも……

千晶――えっ、何で? 頑張ればきっと受かるよ。ねえ、直接会って話そうよ

麻利衣――(OKのスタンプ)