【前回の記事を読む】「どうして私がターゲットに?」…風俗に売り飛ばすにしても、そんな需要があるような容姿ではないのに…

サイコ1――念力殺人

千晶の瞳に妖しい光が見えたように麻利衣は感じた。

「探偵? どうして?」

「実はね……」

千晶は彼女のトラブルについて声をひそめて語り始めた。

「ストーカー?」

「しっ、声が大きい。初めは遊びのつもりだったのよ。

私の家は昔から躾に厳しかったからそれまでマッチングアプリなんてしたことなかったの。でもみんなしてるって言うから口惜しくなって卒業前にこっそり登録して、林良祐という男とつきあうことになったの。

最初は政治家の秘書をしているって言ってた。彼は両親とも既に亡くなっていて、実家の一軒家に一人で住んでいるからいつもそこで会っていた。

でもそのうちに彼が秘書どころか無職で高校を卒業してからずっと実家に引きこもっていたことが分かった。それがバレたら急に私に暴力を振るうようになったの」

千晶が服の袖をめくると痛々しい痣がいくつも残っていた。

「ひどい……」

「こんなの胸やお腹にいくらでもあるわ。顔だけは殴らないけどね」

「警察には言ったの?」

「こんなこと両親が知ったら何て言うか……それを考えたら警察にはとても言えなかった。

それで1か月前、思い切って彼に別れを切り出したの。そしたら彼、趣味で集めているナイフを持ち出して私を殺して自分も死ぬって言って私を追いかけ回したの。

何とか家から逃げ出して命拾いしたけど、それから毎日『おまえを殺す』って脅迫電話やメールが死ぬほど送られてきた。それに実家の周囲や今研修している病院への通勤路や電車の中、さらには病院の中にまでうろついて私のことをつけ回したの。私、もう怖くて怖くて。

そして一週間前、良祐から留守電が入った。翌日の3月10日、二人がつきあい始めた記念日に絶対におまえを殺すって。私怖くなってその日は病院も休んで自宅で寝込んでいたの。ちょっとした物音でも跳び起きて本当に頭がどうにかなりそうだった。