【前回の記事を読む】「こんなの、胸やお腹にいくらでもある」付き合ってから顔以外はひどい状態にされた…別れ話をすると、サバイバルナイフで脅され…
サイコ1――念力殺人
「何の騒ぎだ、ドクトル」
廊下の奥から主人が登場すると猫は彼女の足元に走り寄り彼女の腿の間を八の字を描くように顔や体を擦りつけながらかいくぐった。今日の彼女はベージュの長袖に黒いミニスカートを穿いており、真っ白ですらっとした美脚が眩しかった。
「あの、今日は私ではなくて友人の千晶が仕事の依頼で来ました。私は付き添いです」
女が黙って麻利衣の顔をじっと見つめたので彼女はたじたじとなったが、女はつと千晶の方に視線を向けて言った。
「お待ちしておりました。石川愛さん。こちらへどうぞ」
彼女は二人をリビングに招き寄せた。ソファに腰かけながら麻利衣が言った。
「あの、この人は石川愛ではありません。私の友人の増田千晶です。もちろん富士山の噴火を予知してもらいたくて来たわけでもありません。彼女はストーカー被害で困っているんです」
「もちろん、そんなことはあなた方が来る前から承知していました。私は完全能力者(パーフェクトサイキック)ですから」
女は落ち着き払って言った。千晶は麻利衣と顔を見合わせた後、思わず失笑した。
「麻利衣から聞いていたとおり、面白い方ですね。まずはお名前を伺ってもいいですか」
「失礼しました。私は訊ねなくてもその人の名前が分かってしまうので、つい自分の名前を名乗るのを失念してしまうんです。私はこういう者です」
そう言って彼女は名刺を一枚差し出した。
『タリス超能力探偵事務所所長 河原賽子(かわはらさいこ)』
「河原賽子……」
麻利衣は呆然としてその名を読み上げた。
「珍しいお名前ですね。賽子ってサイコロという意味ですよね。お父様がギャンブル好きだったとか?」
千晶が冗談交じりに笑顔で訊ねた。
「私には親はいません。その名前は私の恩人につけていただきました。とても気に入っています。何せサイコロはこの宇宙を支配する永遠の法則ですから」
賽子は泰然としてそう答えた。
「ところであなた方は私にそのストーカー男を撃退してほしいとお思いですね。それにはPK――サイコキネシスまたはテレキネシスがいいでしょう」
「は?」
「ご安心ください。もちろん殺したりはしません。ただ少し脅かしてやるだけです。大抵の男はこれで震えあがって二度と近づかなくなります。ただ、かなりの精神エネルギーを使用しますからお値段は少々お高くなりますが」
麻利衣はうつむいて眉間に右手の親指と人差し指を当てて深い溜息をついた。千晶が言った。