舌ビラメ

まな板の上で ゆっくりと呼吸する 舌ビラメ

包丁が 腹わたを引き裂いても

鱗(うろこ)を ごしごし こさがれても

真二つに 体ごと切った後でさえ

生きているんだとばかりに 片身の分際で

動き回る

ここまでしても 生(せい)を訴え

こうして 生きているものを 人間は

調理する

しょうゆで煮たった鍋の中でも

勢いよく 海老ぞりになって 主張した魚は

ガスの加熱で ついに 動かなくなった

食物連鎖の頂点に立つ人間

そんなに エライのか ヒトは

空の上で

私に足らないもの

嫉妬 憎悪 怒り 悲しみ

人生の中盤で それらの感情も

身につけた

やっと 一人前になれたわけ

だけど これからは

一枚 一枚 はがしていこう

そうして やっぱ 残しておきたいものだけ

はりつけて

身軽になって 白い雲の上で

寝ころびたい

鈍感

知り合った時から ずうっと

会わなくなってからも ずうっと

見ていてくれた 気がする

全然 気づかなかったけど

離れた所から

眺めていた あなたは

堪(た)えられなくなり 一度だけ

立ち寄った

たった一言を あの表情で

私に言うために

だが その言葉のほんとうの意味は

理解されるのに

長い年月が かかってしまった

 

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