名誉のある学者らしいのだが、それゆえに学生を下に見ているのか態度が横柄で、評価も厳しい。大学の方針で、全員どこかしらのゼミに入るよう言われなければ、僕はどこにも属さなかっただろう。たぶん、そういう人がこのゼミに集まっている。
高校生のときは昼夜問わず真剣に受験勉強をして、何倍もの入学試験を突破するのに、大学生になったら簡単にいい評価の取れる授業を選択する。
都内でもほんの一部の、稀有な才能を持った人間だけが行くような大学は違うのかもしれないが、この桜明大学はそこそこの偏差値を有しながら、実際に在籍している学生はこんなものだ。
「今週の金曜、就活セミナーあるよ」
このゼミは討論形式で進んでいく。議論が早々に終わり就職活動の話に入ったときに、同じ班にいた前園明里(まえぞのあかり)が口を開いた。明るい茶髪にぱっちりとした目の彼女は、男子大学生の好みを見事に捉えた見た目をしているが、馴れ馴れしく距離が近いため、僕は苦手だ。
「優くん、よかったら今度一緒に行かない?」
「……え?」
突然の前園さんからの誘いに、僕の心臓が飛び上がる。嬉しいからではない。緊張したからでもない。なぜ彼女が僕を誘ったのか、意味がわからないからだ。
前園さんとはさほど親しいわけではない。ゼミの討論中にしか話したことはないし、他の授業で一緒になったとしても、手を振ったり、挨拶をしたりすることもない。そんな関係性の僕を、いったいなぜ?
それでも、しばらく考えた後に僕がそれを承諾したのは、断って面倒なことになりたくないのが半分、せっかくだから参加してみようとわずかに就職活動に対する関心が芽生えたのが半分だった。おそらく自分からは動き出さないだろうし、これを機に就職活動について考えてみてもいい。
次回更新は12月16日(火)、11時の予定です。
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