「そうか! よかったあ! いやさ、俺以外のやつみんな就職活動しててさ、どうしようかと思ってたんだよ。仲間がいてよかったよかった」
角田は安心したように廊下を進んでいく。この後はゼミだ。向かう教室は一緒のはずなのに、軽い足取りで一人で行ってしまう。待ってほしいとも思っていないが。
「え! まじで? なにやってんだよー」
ゼミの教室まで行くと、大きな声が廊下の外まで漏れていた。中を覗くと、やはり角田だ。
「そりゃ、そうだろ。もう大学三年なんだぜ?」
「私もこの前インターン受けに行ったよ」
角田と話す学生は、すでに就職活動を始めていたようだ。インターンとは、企業が開く業務体験みたいなものだ。そんなものに参加している学生もいるのか。
少し驚いたが、角田のような焦りはまるで生まれない。理由は簡単だ。僕が就職活動に無関心だから。関心はあるが、まだ着手できずにいる角田とは違うのだ。
「俺もインターン行った方がいいかな?」
「まあ、早いに越したことはないんじゃない?」
他の学生が言うのに、角田はガックリと肩を下ろしている。
僕はそんな角田を横目に自分の席について、ゼミの準備を始めた。
僕が所属するゼミは文学部の中でも、よく定員割れが起きるような人気のないゼミだ。一番人気のゼミは倍率が三倍にもなるというのに。なぜこんな現象が起きるのかというと、このゼミの教授の授業があまりにつまらないからだ。