プロローグ 

校舎内に貼り出されている就職活動のチラシを見て、はぁと自然にため息が漏れる。近年新たな人材を求めて、企業の採用活動が早まっているらしい。

僕が通う東京都の私立大学、桜明(おうめい)大学もその影響を受けてか、最近やたらと就職活動に関する催しが開かれている。まだ大学三年の夏だというのに、不思議なものだ。しかし悠長なことをいってはいられない。

同じゼミに所属する一つ上のゼミ長は、大学三年生のうちに大手企業から内定を取得し、早々に就職活動を終えていた。今は就職活動から解放され、また以前のような金色に髪を染め直している。

あんなふうに就職活動に前向きに取り組み、学生生活を充実できたら、それは幸せだろう。僕にはできないことだ。

「野上優(のがみゆう)くん、おはよう」

突然、背後から名前を呼ばれ、心臓が飛び跳ねる。振り返ると、同じゼミに所属する角田大樹(かくただいき)がニヤニヤして立っていた。ラグビー部に所属しているだけあって、僕の二倍はあるのではないかと思わせるほどの広い肩幅が印象的な大男は、僕がボーッとしていると、フルネームで呼びかけてくる。

「朝からテンション低いぞ! どうしたどうした……? あ、まあこれはテンション 下がるか」

角田は僕の視線の先にあるチラシを見て、肩を落とした。

「就活、なんかやってる?」

「いや、僕は別に」

「本当に?」

角田は訝しげな表情を向ける。本当だ。そんなものに意識を向けられるほど、僕は未来を見れていない。