「それにしても、吉川君って友達とはしゃいだりするんだね。会社では友達なんていりませんから、みたいな顔してるのに」

「俺のことなんだと思ってるんですか? サイボーグかなんか?」

礼は笑うと意外と人懐っこい表情になる。目尻が下がり、少しだけ尖った八重歯が見えた。

「ううん、そうじゃないけど。ただ……会社でも、ああやって友達と一緒に遊んでるときみたいな顔をしてたらいいのになって思って」

「会社では冷たそうに見えるってことですか?」

「そうだよ。言うことは正しいかも知れないけど、それがなんだか冷たく感じるの」

「意識したことなかったです」

「そう? 仕事ができるからって、あんまり人間関係をおざなりにしちゃダメよ? 仕事は、人と人の関係でできてるんだからね」

「別におざなりにしてるつもりはありませんけど、そう見えてるってことですよね」

礼はグラスを少し傾け、静かに千春の話を聞いていた。

「じゃあ、俺がまずいことやってるなって思ったら、注意してください」

「え……それでいいの?」

「それでいいのって?」

「だって……いや、なんか、そういうポリシーなのかなと思ってたから」

「いや、全然そういうのじゃないです。ただ、誰も俺にはそういうことを言ってくれる人がいなかっただけだと思います」

「そっか……うん、わかった」

(意外と素直なところもあるんだ……)

礼のことだから、どうせ人間関係などくだらないとか、仕事は人間関係に依存させたらいけないだとか言われるのだと思っていた。

千春が最後の一口を煽ると、礼はすくと立ち上がった。

「じゃあ、約束の1杯も終わったんで。送ります」

「いや、いいよ。あとはタクシーで帰るだけだから」

「この時間、タクシーもすぐ捕まりませんから、話し相手として。こんな時間に女性一人で歩かせませんよ」

(……こんなふうに女性扱いされるの久しぶりかも)

いわゆる結婚適齢期には「可愛げがない」と散々言われて男性からは疎まれ、年齢が30を超えると今度は「おばさん」扱いをされてあっというまに38歳になった。

その過程で、自分にこうしてくれた人はどのくらいいただろう。おそらく片手で収まる程度だ。

次回更新は12月11日(木)、11時の予定です。

 

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