「これからほんとに楽しくなりそうですね。早速明日からどうするか考えてきました。僕から一応案を出すからチピタも何かあったら言ってね。僕はあなたとはこんな感じの旅をしたい。

例えば4日後にこの同じ場所で会おう、この間に僕が見聞してきたこと、あなたが見聞してきたこと、感動をお互いに交流する。もちろん一緒に見学する時間も作る。どうですか」

「顕治さん、おもしろいわ、一人旅のおもしろさとお互いの寂しさを和らげることができるわね。ひょっとして奥さんともそんな旅がしたかったのではないですか」

「チピタに心を読まれた」と二人の間に共感の笑いが湧き起こった。

「僕の旅程をチピタに知ってもらった方がいいかな」

「いいえ、私も自由な気楽な旅にしたいので、顕治さんの旅程は知らない方がいいと思います。もし何かありましたら早めに連絡してください。住所あるいは名所を教えてもらえば確実に行くことができます」

「了解しました。僕も住所さえ教えてもらえばどこにでも行けますよ。チピタが困ったことがあったら連絡してね。何はさておきすっ飛んでいくからね」

「ありがとう顕治さん」

まだ会ったばかり、まだまだお互いに知りたいことがある。でも二人の間には安心感が生まれていた。いずれお互いのことはわかるだろう。確かにお互いが人のいい旅人に違いないことを確信したからだ。

とにかくお互いの旅を豊かにするための、一緒の旅。高齢の夫婦が寄り添いながら、まさに体を支えながら歩く姿を見るにつけ、「いいなぁ、あんな風に」と顕治は感じてきた。その一方、二人でいつも一緒ではない旅ができたらとも思ってきた。

チピタとの出会いはそれを実現させてくれそうだ。ゆっくりゆっくりチピタとの交流は進めていこう。

チピタと別れてから、気になる観光スポットに立ち寄ることにした。ガムラスタン駅近くのノーベル賞博物館(Nobel Prize Museum)だ。顕治は日本の国立科学博物館でボランティア活動をしている。

地球館の地下3階にノーベル賞受賞者の展示物があり、顕治の気に入ったフロアーの一つだった。実際にノーベル賞博物館を見学して、日本の科学博物館の展示物だけでは伝えられないものを伝えられたらという思いでいた。

 

👉『顕治とチピタ』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】電車でぐったりしていた私に声をかけてきたのは、不倫相手の妻だった

【注目記事】父は窒息死、母は凍死、長女は溺死── 家族は4人、しかし死体は三つ、靴も3足。静岡県藤市十燈荘で起きた異様すぎる一家殺害事件