まぶたを閉じたままマドカはそううわ言のように息苦しそうな声を漏らす。ヒカルがポテトチップスの上にトマトケチャップを力強く絞り出して、残りがもうわずかなのかさらに力を込めて頬の肉を震わせる。

「くすねたんじゃないよ、人聞きが悪いだろハルカ。凍え死にそうな思いをして、フリーザーの棚卸しがやっと終わってさ、あれもう少しで捨てられるところだったんだ。グロッサリー(食料雑貨店)用のお菓子はごめん、そのガムでがまんなハルカ」

「ああそれ、もうあかん。パッキパキにしけっとったから梅とフルーツは箱ごとポイしたで、なあそや今年もまた福岡産いちごの冷凍クリスマスケーキ予約忘れんといてな、船便でえっらい月日かかるんやろ。そりゃあ地球の裏側からやからなあ、お金払ってもええわホールで三つ予約しといて」

赤いトマトケチャップを唇のきわにつけたヒカルは、テレビ画面から視線をそらさずにそんなことを言ってあぐらをかいた片足の裏を掻いている。

ラウンドテーブルの上に置かれた和食器は、どれも孔雀と鶴が縁に描かれていて「MURAMASA」というスシ・バーの名前が誇らしげに中央に印字され、どの器も伸びて糊になった米粒や潰れたアボカドや醤油とマサゴ混じりのマヨネーズなどがべっとりと付着したまま乱雑に平らげられている。僕はその中でかろうじて原型をとどめた生き残りのロールを一つ選び口に運んだ。

 

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