【前回の記事を読む】アメリカのフロリダ州。普段は日本食レストランで働いている二人だが、アパートに帰るとオランダ産のマリファナを吸って…
2. 饗宴
「なあマサ、そういえばインチサイズの工具、ディーラーに寄って訊いてみたけど中古はさすがにわからないってさ。ちょうどツール屋のルートバンが来ていて笑われたよ。デイトナビーチのバイクウィークで、片っぱしから露店を探しまわったけど見つからなくて、すごく悔しがってたろ? 地元の奈良にいるアメリカンバイク仲間にかっこつかないって」
「ああ、ハンドツールな。わざわざ訊いてくれたんか。バイク用のインチサイズはなかなかないんやろな。あんな高級品、新品はさすがに手え出えへんし、もうええって。きっと見つからんわ。そうやったバイクウィーク、連れていかしてもろたなあ。あれ三月やったか。何でやろ、もうえらい昔のことのようやわ」
マサはうつろな目で中空を見つめながら細いジョイントをふと思い出したように吸う。
「あれいい女やったのにリク、もったいないことしたわ。覚えてるやろ、がたいのごっつうええ本場のバイカー連中がえらいぎょうさんおったライダースカフェで、うちら肩身せまそうに一服してたら、あのハリウッド女優そっくりの白人女に逆ナンされたやつや。あれほんまにリクとやりたい目してはったのに、お前だらしなくたじろいじゃうもんやから、あんなワスプのべっぴんさんとやれるチャンスもう二度とないで」
「いいんだ、あのときはまだ本当に何を言っているのかわからなかったんだから」
「まあ、おかげさんで土産の写真はたんまり撮れたし、もうええやろ。渡米代に消えた俺のショベル、いま頃どんなやつが乗ってはるんやろなあ、いま考えるとちょっと無駄やったかなあ」
リッキーは器用な手つきでチーズとサラミをサバイバルナイフでスライスし、それをあらかじめカリフォルニアロールに使う胡瓜を乗せたクラッカーの上に置いて、ひと口で頬張り咀嚼しながら眩しそうな眼差しでハルカを見つめ、メキシコ産のラガービールの小瓶をラッパ飲みして流し込む。
「ねえ、ちょっとそこの明かりつけてよ。暗くてよく見えないじゃん、もう」