どれくらいの時間が流れたのだろう。一時間かもしれないし、一秒後かもしれない。僕はラウンドテーブルの前にあぐらをかいてモブが持ち込んだ薄ピンク色のピンガを飲んでいて、手許にはガムの銀紙で折りたたまれた飛行機が二機転がっている。

「ヒカル聞いてる? それとバーバラの授業はフケちゃまずいって、あいつしっかり点呼するじゃん、出席日数足りないとほんとにビザやばいよ、あたしもだけどさ、パパに殺されるわ、それでまだなの? グリーンカードの抽選結果」 

金属的な色のマニキュアが塗られたヒカルの指爪は、ピアノの鍵盤に触れるように銀紙の上に置かれ、それは折りたたんでいるというよりもカナブンのような甲虫がたかっているようにしか見えない。

「アカンな。だってもう九月やろ。抽選は五月のはずやから、とっくにダメ確定やんか。はあ、どないしよ。バイト先に就労ビザのスポンサーになってもらえんかったら、もうあとないでアタシ、ニホォン帰っても、することないなあ。ほ、ん、ま、よしゃこれ飛ぶできっと」

「なあリク、お前ろくに食えてないだろう、まだ柵のイエローテールが少し残ってるからおろそうか? なあマサ、クスリ溶かしてないで先にわさび粉リクに練ってやれ」

腰を上げたダイスケがそう言って冷蔵庫の扉を開け、その中の淡い明かりが遠くの壁一面にうっすらと彼の巨大な横顔のシルエットを浮かび上がらせる。

 

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