【前回の記事を読む】フロントガラスに口紅で『BUY ME!』、ボンネットの上には巨大な角――その他にも見慣れない車を何台も見つけた
2. 饗宴
「音がだいぶ外に漏れてるからさ、リッキーちょっとだけボリューム下げてくれよ」
暗いキッチンのスツールに座るチャイニーズのリッキーは、微笑みながら曖昧に頷いてステレオのボリュームをわずかに絞る。
さらっとした茶色の髪をインテリ風に七三分けにしているのとは裏腹に、肩までまくられたシャツから伸びる二の腕にはグリフォンのタトゥーが鮮やかに彫られている。
奥のバスルームにランドリーバッグを置きに行くと、バスタブの中で知らない男女が絡み合っていてシャワーカーテンをゆっくり引いた。シーズーは足許でこちらを見上げながらクルクルまわって吠え声を上げる。
「ほらケルベロス、餌だよ。そっちで食べな」
僕はそう言ってドライフードを空けた皿をウォークインクローゼットの床の隅に置いた。
「今度はちゃんとショウゾウさんに言ってきたのかダイスケ。勝手に高級サルーンを使ってまた電話がきたら面倒臭いからさ」
「心配いらないってあんな十年落ちのポンコツ車。どうせ明日はめずらしく雨だろ。ゴルフできない日は朝から晩まで骨董品みたいな昭和のAV観てるから大丈夫だよ。なあマサ」
ダイスケはそう言って尖ったあごひげを引き大きなゲップをした。彼はムラマサで板前をまかされている店長兼ヘッドシェフで、出前の注文品をおもに受け持つマサと並んでいつもカウンターの奥に立っている。