「こっちだって好きで年下上司やってるわけじゃないっつーの!」
「おい、もう酔ったのか?」
「酔ってない。ただ、うまくいかないなぁって思っただけ」
残りの酒を飲み干すと、喉を熱い酒が通っていくのがわかる。
ダーツバーの方からわっと盛り上がる声が聞こえて、千春はそちらに目をやった。視線の先には楽しそうに4,5人ではしゃぐ男たちがいる。
(若いな。楽しそう。私もあのくらいだったら、こんな悩みとは無縁だったのかも──)
そう思った瞬間、その集団の中にいた男の1人で視線が止まる。
(ん!? あれ、吉川君!?)
楽しそうに友達とハイタッチをしている礼の姿があった。
(なるほどね。歓迎会よりも優先する予定って、友達とのダーツなわけ……)
会社で見るよりも年齢相応に見える礼の姿に、なんとも言えない気持ちになる。会社ではいつも実は肩肘張っているのかなとか、大人ぶっているところがあるのかなとか、そんなことを思ってしまう。
(ここにいるのがバレたら面倒だし、さっさと帰ろう)
「京ちゃん、ちょっと早いけど帰るわ。今度また来るから」
「え? 早いな、どうしたの」
「ちょっとね、のっぴきならない理由ができたっていうか……」
京弥にクレジットカードを手渡し、お会計をお願いする。レジを操作する京弥の背中を何気なく見ていたときだった。
「水瀬さん?」
「え……」
振り向くとそこには、不思議そうに首を傾げる礼の姿があった。
次回更新は12月4日(木)、11時の予定です。
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