1人で飲みたいときに訪れる、お気に入りのバーがある。最近は改装してダーツバーに変わったが、カウンター部分は変わらず、オーナーの京弥とは昔なじみである。

勤務報告書をかきあげ、パソコンをスリープモードにする。千春は重い身体を引きずって、オフィスを出た。

「お疲れ。いつものでいい?」

「うん、ありがとう」

バーに行くと、グラスを拭いていた京弥が声をかけてくる。

「今日はくるみちゃん、いないの?」

「残業で遅くなったからね」

「ふーん。相変わらず残業ばっか?」

「そうだね。本当、万年人手不足よ、うちは」

「大変だねぇ」

「今日はお酒を飲む予定もなくなったし、華金を満喫しなきゃもったいないじゃない?」

京弥が店名の印字されたコースターを置きその上に、白州のロックをテーブルに置いた。

「もうさー、聞いてよ。今の若い子ってば本当に協調性がないの。新しい男の子が入ってきたんだけどね、その子が本当に生意気で!」

「まぁ若い男なんてのはみんな生意気だろ」

「だって、仕事の内容もろくに知りもしないくせに、アレやらせてくださいだの業務効率がうんぬんってさぁ……」

お酒を煽ってから、大きくため息をついた。さっきの岩下の態度を思い出すと、むくむくと怒りが頭をもたげる。

「しかも! 年上部下ってだけでやりにくいのに、なんか私が知らない間に圧をかけちゃってたみたいでさ……あんなボリュームで文句言ったら聞こえるって!」

「ずいぶん溜まってるな」