内科ではなく耳鼻科に回されたうえに医者から告げられた病名は、顔面神経麻痺だった。そして、「女の子だし、しっかり治療したほうがいいでしょうね」ということで、その場で入院することになった。
子どもにとって、〝入院〟という大きな事件は突然やってくるものだと思った。そこで行われた治療は毎日、ビタミン剤とステロイド薬と言われる点滴を受けることだった。しかし、血管の細い私の身体は、看護師さん泣かせだった。
「智美ちゃんの血管は細いから……、でも、がんばって刺すからねぇ」なんてことを言われながら、私は我慢して点滴を受け続けた。
看護師さんたちはいつも明るく、私が「顔が動かないままだったらどうしよう」というような不安を口にすると、「大丈夫よ、この病気はだいたい治るから」とか、「智美ちゃんもがんばって点滴を受けているから、必ず良くなるわよ」とかを言ってくれた。
優しいお姉さんやお母さんたちの一言で、私はずいぶん救われた記憶がある。
麻痺にはリハビリも大切なようで、先生から筋肉を動かすためのイラストつきの説明書を渡された。顔の体操マニュアルだ。
顎を左右に動かしたりほっぺたを膨らませたり、目や口を閉じたり開いたり、おでこを揉(も)んだりといった、要はできるだけ〝変顔(へんがお)〟をするということである。私は鏡を用意して、自分の顔を見ながら病室で一人、リハビリに没頭していた。
あるとき、その様子を看護師さんに見られてしまった。
「あっ、リハビリですよ!」
私は恥ずかしさを隠すつもりで、焦りながら言い訳をした。
「わかっているわよ、顔を動かして筋肉が固まらないようにするのよね……。いい、こうやるのよ」と言って、その看護師さんは見本を見せてくれた。美人なお姉さんが、私と一緒になって変顔につき合ってくれた。にらめっこをするような感じになって、私も看護師さんも吹き出してしまった。
「あはは……、すごい顔」
お互いにお腹を抱えながら笑った。
「そう、それよそれ、笑うのが一番リハビリになるのよ!」
人生においてはじめての入院は、それはそれでたいへんだったけれど、優しい看護師さんたちのおかげで私は楽しくすごすことができた。と同時に、子ども心に看護師さんって素敵な仕事だなぁなんてことを思った。
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