【前回記事を読む】「救急カートすぐ持ってきて!」響き渡るアラーム音、乱れた心電図、苦しむ患者――初の夜勤を緊急事態が襲う…!

第一章 患者急変

「酸素マスク!」

矢継ぎ早に指示が入る。指示というよりは、もう命令だ。壁に取りつけられた配管口に酸素チューブをつなぎ、マスクを装着した。命をつなぐ救急救命措置が、いままさに目の前ではじまった。実習で学んだ手順を思い出しつつ、先輩の行動の逐一を観察しながらサポートに回るしかない。酸素流量計のつまみをマックスまで捻ったところで、心電図波形はさらにその形を変えた。

「まずいっ!」

千登勢先輩が声を上げた。恐れていたVFへと移行したのだ。

まずい、これはまずいぞ、私でもその異常波形が認識できるくらいだから、これは本当にまずい。

「小元先生にもう一度、すぐに来るようコールして。それから胸骨圧迫をはじめるから!」

〝心臓マッサージ〟をするってことだ。模型を相手に実習で少しかじった程度で、生身の体でなんかやったこともない。そんなことをしなければならない状態だとしたら……、田所さんは確実に命を落とす。私は激しく動揺した。自分でもわかる。でも、でもだけれど、いまここで、なにをどうしたらいいのか……。

「小元先生、救急外来で別の急患の対応に当たっていて、すぐに行くとは言っていましたけど……、ちょっといつ来られるかわかりません!」

こんなときに限って……。でも、ここは救急病院だ。急変が重なるなんてことは決して珍しくない。自分はこういう現場だから、こういうことが起こることを想定したから、ここに来たのだ。だから……、慌てている場合じゃない。

「智美さん、除細動器(じょさいどうき)をすぐ使えるように準備して。それからリドカインの用意を。挿管にもなるから支度をお願い!」

「はっ、はい!」