よし落ち着け、大丈夫、大丈夫なはずだ。挿管の手伝いなら前の大学病院で一度はやった。
「石原(いしはら)さん、替わるよ」
小元先生は私からバッグマスクを引き取ると、押しながら患者の頭側に回り込む。いったんマスクを外し、患者の顔の高さまで姿勢を落とす。おもむろに口を開かせたところで、私はブレードの先端を挿入方向に向けた状態で喉頭鏡(こうとうきょう)を構える。喉を広げる器具だ。
「喉頭鏡!」
喉頭展開が行われた時点で、首の部分の甲状軟骨を押す。声帯を見やすくさせるためだ。同時に、すぐに挿入できるよう気管チューブを手渡す準備をする。
「気管チューブを!」
患者の右口角を広げ、挿入しやすいように介助する。一点を凝視し……、狙いを定めて……、先生はチューブをゆっくりと挿入した。
「スタイレット抜いて」
チューブのなかに通してあった強度を上げるための針金のようなものを抜き取る。
「とりあえず八CC」
カフに空気を入れることで、チューブ先端の風船が膨らむ。これによってチューブを気管壁に密着固定させる。バイトブロックをかまし、患者がチューブを歯で押し潰さないようにする。正しく挿管されているかどうかを確かめるために心窩部、両上肺野、両側胸部の五点を聴診する。さらに、胸郭の対称的な上下運動や、呼気時の気管チューブのくもりの有無などを先生と確認する。
見事! 挿管は一発だった。が、まだ終わらない。
「千登勢、心マ替わるよ!」
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