すると地面には、蛇のようにうずくまっている鉄毬と鎖の塊(かたまり)が転がっていた。

(何が起こった? いったい全体どうしたんだ?)

箱には傷ひとつ付いておらず、亜摩利の驚きの顔だけが飛び込んできた。義近には何が起こったのか理解できなかった。

「な、なんじゃ! 鉄毬が弾かれた? 嘘だろ! 見えなかった……どうしたというのだ!」

亜摩利は信じられないといった表情で、鉄毬と鎖を引き寄せた。もう一度両手で鉄毬を振り回し、今以上の速度で投げつけてきた。義近はふたたび箱を背にして丸くなった。

ガシッ、ドンッ!

今度は金属音の後、鈍い音があたりに響いた。

亜摩利を見ると跳ね返った鉄毬が、なんと彼女の肩に突き刺さっていた。亜摩利は突然の反撃に虚を突かれ、俯(うつむ)いたまま動きが止まっている。

(えっ! 何をしたというんだ。おいらは何もしてねぇぞ!)

義近は何が何だかわからなかった。

しかし敵の動きが止まったことだけはたしかだった。好機であることに変わりはなかった。

とにかく痛む全身を奮い起こし立ち上がった。今は逃げるしかない。義近は坂本の町の方角を目指し、足を引きずりながら走り出した。

岩場の道からふたたび木々の生い茂る古道となり、一直線に続いていた。木漏れ日が目まぐるしく義近の顔を照らし、視線を遮るかのように被(かぶ)さった。

強烈に脇腹の傷が痛む。片手で脇腹を押さえつけ、調息(ちょうそく)という忍びが使う特殊な呼吸法で走り続けた。この呼吸法は体力の消耗を極限まで減らす方法で、腹式丹田を用いた呼吸法である。