【前回の記事を読む】僕が一生懸命書いた台本はゴミ箱に捨てられた。「あんたの書く本は、物語になってないんだよ!」稽古場に怒号が響き…
第一幕 やりたいこと
「これから言うことは……ただの独り言。私がコウくんの胸借りて、勝手に言ってるだけ。返事、いらないから」
声はいつものように明るかったが、震えていた。
「私さ……前も言ったけど、コウくんの書く話が好きなの。コウくんの言葉が、大好きなの。この本も、ゴミ箱から勝手に持ってきちゃった」
僕が先輩の震える肩を持とうとした瞬間、先輩が声を上げた。
「悔しいよ! 私……みんなの前で怒鳴られて、裏でバカにされて……それで、コウくんまで自暴自棄になってさ! ……悔しいよ」
「先輩……」
先輩は、そのまま座り込んでしまった。
「私……見たいよ。ここがいっぱいになって、みんなが笑顔で舞台を観てる……そんな光景が……もっと私に夢を見せてよ……一緒に夢を見ようよ……」
それは、僕を動かすのには十分な言葉だった。僕はゆっくりと膝をつき、先輩の肩を抱き寄せる。小さく震える先輩の肩。頬には大粒の涙がとめどなく流れていた。
僕は先輩を引き寄せたまま、静かに口を開く。
「書きます……もう一度」
先輩は顔を上げなかった。涙でできた小さな水たまりには、ぼんやりとライトが反射していた。
どれほどの時間が経ったのだろう。先輩の震えは止まり、涙も乾いていた。
「ありがとうございます、大田さん。今日は、無理言って開けてもらって」
僕はいてもたってもいられずに、頭を下げた。
「すみませんでした! 勝手に落ち込んで、先輩にまで八つ当たりして……」
「いいよ別に。私も、勝手に怒っただけだし」
「いや……でも……」
すると先輩は、僕の方を向き直って、笑顔でこう言った。