「もう一回聞くね。コウくん、今でも書きたい?」
僕を見据える視線に、かつては出なかった言葉を返す。
「……書きたいです。先輩の夢に応えられるような、そんな脚本」
夕焼けの道を歩く僕と、その一歩半くらい前を行く先輩。
「先輩、その……ありがとうございました」
「だからいいって。コウくんが、また書く気になってくれただけで、十分」
先輩がおもむろに足を止める。
「また書いたらさ、私、やらせてもらってもいいかな」
「先輩……」
先輩の方を向くと、以前と変わらない、満面の笑みを浮かべていた。
「夢、見せてくれるんでしょ? 楽しみにしてる!」
第二幕 ほしいもの
セミの声が聞こえてくる昼下がり、じりじりと照り付ける太陽を横目に、僕は原稿用紙と睨み合っていた。
「どうして……こうも上手くいかないんだろう」
ため息にしては、ずいぶんと息の量が多い。
ペンを握ったはいいが、構想すらまともに出てこなかった。
「夢を見せるための……か」
本棚に目をやる。ああして啖呵を切ったものの、実際書くとなると、壁がより大きく感じていた。
ぐりゅるるる……
腹が音を立てる。立ち上がって冷蔵庫を開けるが、酒の缶しか入っていない。
今一度ため息を吐いた僕は、財布を握り家を出た。
外は蒸し暑く、嫌に生ぬるい風が肌をなでる。じっとりと汗をにじませながら、僕はコンビニへ向かった。
「あ、コウくん!」
コンビニに入ろうとした時、不意に後ろから声をかけられる。振り返ると、先輩がバッグを肩から下げ、小さく手を振っていた。
「先輩。どうしたんですか?」
「別に? 散歩してたら、いるなぁって」
そうは言っているものの、先輩の額にはうっすらと汗がにじんでいた。きっと走ってきたのだろう。息も切れている。
「コウくんも買い物?」
「ええまあ、そんなとこです」
「じゃあ一緒に行こ! いいアイスあったら教えてね!」