そう言って先輩は僕の腕を引く。まるで子供のようで、僕は自然と笑みがこぼれた。
「いやぁ暑いねぇ! もうすっかり夏って感じ!」
コンビニに入った僕たちは、クーラーの風にあたっていた。先輩は涼しいなぁと言いながらお菓子コーナーへ向かうと、アイスの棚を物色し始める。
「コウくん! これ! 新作だって!」
無邪気に笑う先輩を見ていると、演劇部を思い出す。
夕日に照らされる教室。そこには高校生の先輩と僕。
「ここ! 今度は違うニュアンスで言ってみようよ!」
「またですか? 先輩……これでリテイク二十回目ですよ?」
「アイデアが湧き出てくるんだもの。それに、楽しくない? キャラがその場にいる! ……そんな感じがしてさ」
歯を見せるほどニカッと笑った先輩は、芝居を心から楽しんでいる、そんな表情をしていた。
僕は、そんな先輩の背中を、ずっと追いかけていたかったのかもしれない。
だから僕は……
「先輩、僕これとこれで」
「え? 新作食べなくていいの?」
僕はカゴに二つのアイスを入れて、会計を済ませた。店を出ると先輩はさっそく袋を開けて口に咥える。
「~~~っ!」
冷たさにこめかみを押さえ悶絶する先輩を横目に、僕もアイスを頬張る。
「つめたっ……」
それは自分の物とは思えない、裏返った声が出た。
「え? 今のコウくん?」
そう言いながら僕の顔を覗き込む先輩。
僕は恥ずかしくなり、立ち上がって歩き出す。